デイジーワールドとは?

「ガイア仮説」とも呼ばれ、地球の大気・海洋・地殻の現象と、生物が相互に関係し合い地球の環境を作り上げ、しかもその相互作用には、ホメオスタシスの性質が備わっていて、生命が生存しやすい環境になるように自己調整されているという仮説です。

生体のように自律的に機能することから、生命圏も含めた地球全体が、ある種の「巨大な生命体」であると見なすことができるとう考えから、ギリシャ神話の大地の女神の名前「ガイア」から名前がつけられています。この仮説は、イギリスの科学者(生物物理学、医学)であるジェームズ・ラブロック(1919~)によって1970年代に提唱されました。

当初「ガイア仮説」に対する批判として、「(高度な頭脳をもたない)微生物や生物が全体を調整している」ことなどあり得ないというものでした。この批判に応えるために、ラブロックとワトソンは、「デイジーワールド(Daisyworld)モデル」という非常に簡潔なモデル用いて、2種類の植物が存在するだけで、ホメオスタシス機能が創発されることを示しました。デイジーとはヒナギクなどのキク科の花です。

このデイジーワールドモデルでは、架空の太陽と惑星を想定します。太陽は、太陽系ができた当初から徐々に明るさを増し、惑星に届くエネルギーも増加していくと仮定されています。実際の地球を含む太陽系の太陽も徐々に明るさを増してきています。40億年前の太陽はもっと暗く、また40億年後の太陽は、いまよりもっと明るく高温になっており、地球は現在よりもはるかに高温状態になっていくと考えられます。

また図のように、デイジーワールドの惑星には海は無く、全て陸地であり、ここに2種類のデイジー(黒い花のデイジーと白い花のデイジー)のみが存在していると仮定されています。他の生物は存在しません。そして、黒いデイジーの花びらは黒いため、光を吸収しやすく、花自身や周囲の空気や地面を温める作用があります。一方で、白いデイジーの花びらは光を反射しやすいため、周囲の空気や地面をさほど温めません。

デイジーワールドでは、温度が上がりすぎると白いデイジーが増えて温度を下げる働きをし、温度が下がりすぎると黒いデイジーが増えて温度を上げる働きをします。このような働きにより、徐々に変化する太陽の明るさがある範囲内にあるときは、太陽の明るさが変化しても、惑星の地表温度は、太陽の光の変動を受けずに安定していることが観測できます。すなわち、惑星の大気の温度は、ホメオスタシスが維持され、デイジーにとって繁殖しやすい気候条件を自律的に造りだしているとみることができます。もし、デイジーが全くない状態の惑星でシミュレーションを開始すると、惑星の気温は太陽の温度上昇に比例して上がっていくだけとなります。

ラブロックと ワトソンがデイジーワールドモデルを紹介した論文は以下です。インターネットで検索すると全文が公開されています。

Watson, A.J., and J.E. Lovelock, 1983, “Biological homeostasis of the global environment: the parable of Daisyworld”, Tellus 35B, 286-289.

また、下記のkindle電子書籍で、Excelを用いた2次元のデイジーワールドモデルを自分でつくれる解説をしています。

石田武志『EXCELでつくる生態系モデル: デイジーワールドモデルをつくる』電子書籍Kindle版、2017年3月